本日、この良き日に、学位記を授与された209名の皆様、ご修了まことにおめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。
通常の2年課程で修了される方々に関しましては、2年前の入学式は、竞彩足球app下载感染症の影響で、実施できませんでした。また、この2年間は、そのときどきの感染状況に応じて、オンライン授業やハイブリッド授業になったりもしましたので、すべての修了生が、戸惑いや不安を覚えながら、研究や教育実践に取り組まれたことと思います。さらに直近では、今回の学位記授与式や入学試験を実施するために、入構制限などの措置もとらせていただきました。ご不便をおかけしたことはお詫び申し上げたいと思います。
人生には、その節目ごとに、さまざまな行事があります。修了式もそうした行事の一つです。大仰なことはしなくてもよいとも思うのですが、一方で節目ごとの行事は大事なことだとも思います。私自身が学生のときは、大学の入学式から竞彩足球app下载の修了式まで、大学の事情であったり、私自身の仕事の都合であったりして、一度も参加できていないのですが、それはそれで寂しい思い出として心に刻まれています。ですので、今回、学位記授与式が行われることは、私にとってもとてもうれしいことです。皆さんとともに、修了された喜びを分かち合いたいと思います。
さて、多くの皆さんが4月からは教壇に立つことと思います。教師という職業は、やりがいのある職業だと思いますが、皆さんもご存じのとおり、少子化の影響で、学校教育はたいへん難しい時期に入っていきます。
総務省の「人口推計」や国立社会保障?人口問題研究所の「日本の将来推計人口」などを見ると、14歳以下の人口は、1950年から2050年の100年ほどの間に約三分の一になります。こうした少子化は、どこの大学でも影響を受けることであるとはいえ、出生人口の減少は、年齢の低い子どもたちを受け入れる学校から順に影響を受けますから、幼稚園、小学校、中学校、高等学校と順に問題が深刻化し、統廃合による学校数の減少が起こります。そしてこの現象は、教員採用者数の減少につながりますので、とりわけ、教員養成にかかわっている教育大学や教育学部の定員が埋まらなくなるという事態が起こりえます。竞彩足球app下载も例外ではありません。もちろん、私たちとしても、手をこまねいているわけではなく、今後もさまざまな取組によって、「教員になるなら竞彩足球app下载へ行こう」と言ってもらえるような大学にしていきたいと思っています。
また、教職はブラックな仕事であるかのような報道もあり、教員採用試験の受験者数もあまり増えない状況にあります。しかし、そうした報道もきっかけとなっているのだと思いますが、学校のシステムが少しずつ変化し始めています。昨年度さいたま地方裁判所で行われた残業代をめぐる裁判では、教員側の訴えは退けられたものの、「教員の時間外労働を原則認めない教職員給与特措法（給特法）は見直すべきだ」という裁判長の異例の発言についても報道されました。皆さんが教師として活動する中で、教員の待遇も徐々に変化していくものと思います。
教師あるいは教員という職業は、いったいどういう職業なのでしょうか。これまでも、聖職者のように語られたり、労働者のように語られたりしていますが、近年では、高度専門職業人として語られることが多いようです。たとえば、医者や弁護士が特別な専門的知識やスキルを有しているのと同じように、教師もその専門的な知識やスキルへの対価として収入を得ているという考え方です。
とりわけ、本日竞彩足球app下载を修了する皆さんは、2年間、あるいは3年間に渡ってそれぞれの専門性に磨きをかけたのですから、高度な専門性を有した教師という名称にふさわしいと言えます。しかし、これで皆さんの学びが終わったわけではありません。ドナルド?ショーンが言うように、実践家として実践の中で省察し、新しい解決策を見つけながら教師として成長し続けることが、皆さんには求められるのです。それを、自らの成長を感じ取ることのできるすばらしい職業だと思うか、そんなことは面倒くさくていやだなと感じるかは、皆さん次第なのです。皆さんの意識が前者であることをお祈りしています。それが、つまりは、教師という職業に生きがいを感じて取り組めるということになると思われるからです。
今、「生きがい」という表現を使いましたが、これと密接に関連している、ウェルビーイングという概念があります。これは、エージェンシーという概念を用いて話題になっている、OECDが出した「学びのコンパス2030」の中でも、もう一つの重要な概念として用いられているものです。ネット上で出回っている日本語訳でも、カタカナ表記でウェルビーイングと表記されています。あえて訳すとすれば「幸福」あるいは「福祉」というような意味です。
古代ギリシアの思想家アリストテレスは、この幸福をギリシア語でエウダイモニアと表現し、最高善とみなしました。アリストテレスにとって、いかに私たちがエウダイモニアを実現するかが大切なのです。
この概念は現代の心理学にも受け継がれています。しかし、この幸福はハッピネス（ギリシア語ではヘドニアといいますが）とは違います。ヘドニアは五感で感じることのできる快楽ですが、エウダイモニアは、自己実現を通じて獲得されるような幸福であり、ときには苦難をともなうようなこともあります。これに近い概念として、「学びのコンパス2030」では、ウェルビーイングが使われているようです。個人のウェルビーイングには11の要因が関与していると言います。健康状態、ワーク?ライフ?バランス、教育と技能、社会とのつながり、市民参加とガバナンス、環境の質、生活の安全、主観的幸福、所得と資産、仕事と報酬、住居の11です。そうしたウェルビーイングへと児童生徒が向かう教育をOECDの「学びのコンパス2030」では求めており、それは、教師にとっても目指すべき状態だということになります。
ここに述べた11の要因は、哲学的な倫理学の理想状態としてのエウダイモニアとも少しちがっています。たとえば、所得と資産などのような一見したところ卑俗な価値のように見えるものも入っています。また、教師聖職者論や、労働者論だけでもない多様な要因が含まれています。人間の多面的な性質を受け入れつつ、この「よい状態」、つまり、ウェルビーイングを求めることが、教育の目指すべき目的なのではないかと私は考えます。皆さんはどのように考えるでしょうか。これは、教師として皆さん自身が求める生きがいやこれから目指すべき目的にかかわる問題です。
最後になりましたが、式典の縮小によってご参加いただくことが叶わなかったご来賓?保護者の方々にはお詫び申し上げ、修了生の皆さんのますますのご活躍を祈念して、告辞といたします。
竞彩足球app下载４年３月１８日
国立大学法人 竞彩足球app下载長
林 泰成
このページは竞彩足球app下载／広報課が管理しています。（最終更新：2022年03月28日）
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