厳しい冬の季節もようやく終わりを告げ、高田城址公園の桜のつぼみも膨らみ、キャンパスの樹々も芽吹き始めたこの良き日に、竞彩足球app下载学校教育学部を卒業される157名の皆さん、ご卒業おめでとうございます。心よりお慶び申し上げます。また、ご来賓?保護者の皆様にも、今回は久しぶりに式場内にお入りいただきました。お越しいただき、ありがとうございます。
4年前の入学式から始まった大学生活。皆さんは、わくわくしながら勉強に、課外活動に、ボランティアやアルバイトにいそしんだことでしょう。しかし、皆さんが2年生になったころから、竞彩足球app下载感染症が国内でも広がり始めました。大学も入構制限がかけられたり、授業もオンラインやオンデマンド方式になったり、今までにない形で運営がなされました。皆さんも大いに戸惑い、不安を抱えながら、3年生、4年生へと進級し、不自由な大学生活をおくられたことと思います。しかし、そうした状況でも、たゆまず勉学に励み、今日この日に、大学を卒業していかれる皆さんの努力にエールを送りたいと思います。新型コロナは、ここにきてようやく落ち着き始め、5月8日からは、感染症法上の位置づけも、季節性インフルエンザと同じ5類に分類されることになっています。とは言いましても、まだ完全に安心?安全だと言い切るには早すぎるようにも感じられます。これからも、健康管理には十分に留意しながら、新しい職場でご活躍いただくよう祈念しています。
さて、新聞などでも報道されていますが、竞彩足球app下载4年3月の本学卒業生の教員就職率は、文部科学省の発表するデータで82.4％になり、全国の国立の教育学部?教育大学の中で、第２位となりました。その前年の竞彩足球app下载3年3月の卒業生は87.9％で第1位でしたので、順位は下がったのですけれども、第2位も立派なものです。本学は、この10年間、教員就職率は80％超えを継続しており、そうした国立大学は本学以外にはありません。この文部科学省のデータは、毎年度9月末時点での状況です。今年卒業する皆さんの結果は今後調査されることになります。皆さんも、ぜひ先輩たちに続いていただきたいと思います。
卒業生の皆さんの多くは、教員になりますが、皆さんは、どんな教師を理想の教師としてイメージしているでしょうか。私が大学生の頃に、テレビで「3年B組金八先生」という番組の放送が始まりました。その後、長期間にわたって番組は断続的に放送されていましたが、武田鉄矢氏の演じる金八先生が熱血教師としてもてはやされた時代がありました。しかし、ドラマでは、ビンタする場面なども描かれており、その後、批判的なコメントをする人たちも多くなっていきました。ビンタは、ドラマでは「愛の鞭」というような解釈で取り入れられているようなのですが、今の時代なら、確実に体罰として処分される行為です。私たちは、時代や社会が変化しているのだということを意識しないといけません。いや、その時代においてもやってはいけないことだと思いますが、そこまで私たちの意識は成熟していなかったということかもしれません。大人同士の関係の中で許されていない、人権侵害に当たるような行為は、子どもを対象にした場合でもとうぜん許されないということを意識しておく必要があると思います。
直接、人権問題を扱っている小説に島崎藤村の『破戒』があります。明治38年に書かれて、翌年に自費出版された小説ですから昔の話です。内容は、被差別部落出身の主人公が、出自を隠すようにという父親の戒めを守って教員になりますが、最後には、子どもたちに自らの出自を明らかにして教壇を去るという物語です。周囲からの差別によって職を辞すということですから、まったく理不尽な話なのです。何度か映画化もされていますので、映像で見ることもできます。
もう1冊小説をご紹介したいと思います。灰谷健次郎の『兎の眼』です。私が学生の頃に読んで印象に残っている小説です。小学校1年生の男の子が主人公ですが、おじいさんと一緒にごみ処理場に住んでいる貧乏な家庭の子という設定です。その子どもが、22歳の新任担任の女性教師、小谷先生とともに、成長していく様が描かれています。私は、当時、小谷先生に自分を仮託して、自分が新任教員でこういう子どもに出会ったならどうするかなと思いながら読んでいました。しかし、そのころの私は哲学専攻の学生で、教員になるという考えは持ち合わせていませんでした。にもかかわらず、この小説は、私にとって、作者の社会的弱者に対するやさしさのようなものが感じられて、教師の生き方を考えさせられる小説だったのです。今、「私にとって」とあえて書かせていただきました。灰谷氏の作品には、差別小説だとの批判もあるのです。ほんとうのところどうなのかは、お読みいただいて判断していただくしかないと思います。
理想の教師像を考えるには、ドラマや小説以外にも、実際に出会った教師を挙げることもできます。私にも、恩師と呼べる教師が何人かいます。例えば、中学校時代に3年間ブラスバンド部でお世話になった先生、高校時代に、不登校状態に陥った私を、クラス替えの際にクラスに受け入れてくださった先生、大学?竞彩足球app下载時代のゼミの先生などです。共通するものがあるかと言えば、それぞれが個性的な方々で、共通点を見出すことはたいへん難しいのですが、いずれも、私にとっては、魅力的な先生だったのです。
たとえば、大学?竞彩足球app下载時代にお世話になった先生は、人を誉めることのない人で、竞彩足球app下载へ進学する際も、「俺は弟子をとらないから、竞彩足球app下载には来るな」と私は言われました。それでも、先生が在外研究で国内にいらっしゃらないときに、竞彩足球app下载入試を受けて進学すると、その後は、大変厳しいご指導を、竞彩足球app下载を満期退学した後もずっとお亡くなりになるまで続けてくださいました。この先生には、指導の厳しさを教えていただきましたが、同じことを私ができるかと言えば、それはなかなか難しい。なぜなら、人にはそれぞれの個性があるからです。優しい指導が得意なひとも、厳しい指導が得意なひともいます。いろんな人に学びながら、この点は、この先生のようにやってみよう、あの点は、あの先生のようにやってみようということでよいと今では思っています。
皆さんに、理想の教師のイメージを問いましたが、おそらく157人の卒業生に問えば157通りの教師像が浮かびあがることでしょう。でも、この教師像を持っているか持っていないかは、教師になる人にとっては、これからの生き方に大きくかかわっていくものと思います。教育大学に入って教師をめざそうと思ったその初心を振り返り、また自らの性格や行動傾向などについても考え、もう一度、理想の教師のイメージを描き直して、4月から始まるお仕事に備えていただきたいと思います。
最後に卒業生の皆さんのますますのご健勝とご活躍を心よりお祈り申し上げて、告辞といたします。
竞彩足球app下载５年３月２０日
国立大学法人 竞彩足球app下载長
林 泰成
このページは竞彩足球app下载／広報課が管理しています。（最終更新：2023年04月12日）
サイトマップを開く
[73KB]