5月も半ばを過ぎました。雪が解けてから梅雨に入るまでの今の季節が、上越は一番美しいと私は思います。雪が解けて新緑が芽吹き、梅や桜の花が咲き、そして今は、家々の庭にさまざまな春の花が咲き乱れています。
一方で、国際社会のありように目を向けると、ロシアとウクライナの戦争やイスラエルとパレスチナの戦いなどにみられる国家間の対立があります。また、トランプ大統領の関税政策に端を発して生じた相互関税発動で、自由貿易の体制が危機的な状況にあります。一触即発のきな臭いにおいを感じているのは私ばかりではないように思います。
さて、私は、NHKの4月から始まった朝ドラ「あんぱん」を、毎朝見ています。「アンパンマン」の絵本の作者であるやなせたかし氏と、その妻の小松暢(こまつのぶ)氏をモデルとして創られた朝ドラです。「あんぱん」は、もちろん、アニメ化されている「アンパンマン」を含意しているのだと思いますが、ドラマの中でも、ヤムおじさん(ジャムおじさんがモデル)が焼く美味しいあんぱんが出てきます。「アンパンマン」は、絵本としては1970年代に入ってから出版され、これがアニメ化されてTV放映されたのは1988年だそうですので、私と同世代の人間は、おそらく、幼児期の体験としても絵本を読んでもらってはいないし、児童期にもアニメを見てはいません。
それでも私がこのドラマに惹かれるのは、20代で戦争を体験したやなせ氏が言った「正義は逆転する」「じゃあ決してひっくりかえらない正義ってなんだろう」という言葉にあります。
彼の結論は、「飢える人を助けること」です。そして、それを体現しているのがアンパンマンなのです。
私は、哲学や倫理学を学んできた人間として、重要な道徳的価値の中心にあるのは、正義と思いやりだと思っていました。ロシアのウクライナ侵攻を報道で知ったときも、一方に正義があると思っていました。しかし、細かな情報を集めて考えると、西側の諸国が東に勢力拡大を図っているようにも見えるのです。ロシアにはロシアの正義があり、ウクライナにはウクライナの正義があるようにも見えるのです。正義って何なのでしょうか。私は、それ以来、正義を道徳的価値の中核にあるものとは考えないようになっています。哲学史の中では、知恵?勇気?節制?正義の4つはギリシャの四元徳と言われています。プラトンのような古代ギリシャの哲学者たちも、その4つを重要な徳(道徳的価値)とみなしていたのです。しかし、それにもかかわらず、私は、今では、「正義なんて胡散臭いぞ」と思ってしまうのです。
正義のありようについては、1971年に出版された政治哲学者ロールズの『正義論』(紀伊国屋)という書物があります。そこでは、平等な基本的諸自由のもっとも広範な制度的枠組に対する対等な権利の保持(第1原理)と、社会的?経済的不平等が認められる条件(第2原理)が示されていますが、そうした議論は、戦争状態にある国々ではまったく意味をなさないというところが、悲しい。
また、やなせ氏の「飢える人を助けること」を否定しようとは思わないけれども、いっときの支援だけではすまないだろうということも気になります。貧富の差が大きいのだとすれば、その部分を修正する社会政策も必要だろうと思うからです。
いずれにせよ、戦時中の愛国教育やそれに反対するやなせ氏の思いが、ドラマの中でどう描かれるのか、楽しみです。
竞彩足球app下载7年5月22日
学長 林 泰成
サイトマップを開く